日本現代美術

Diary

桂ゆき

制作年 1938 / 1979
材質、技法 油彩、カンヴァス
寸法 162.1 × 130.3 cm

1913年東京生まれ。戦前戦後を結ぶ重要な前衛女性芸術家のパイオニアと評される。1926年に女学校に入学し、西洋画に強い関心を抱きながらも、両親の勧めにより池上秀畝のもとで日本画を習い始める。日本画を通じて、緻密な観察から身近な動植物を克明に描写することを身に付け、後に手掛ける油画制作の礎を作った。女学校を卒業後、1933年からは東郷青児や藤田嗣治が指導するアヴァンガルド洋画研究所に通い始める。

画面への現実の導入といったキュビズム以来のコラージュというより、物質の表面に対する関心から出発し、自身の触覚に従って制作された抽象的な桂のコラージュ作品は次第に注目を集め、1938年に吉原治良、山口長男らとともに二科九室会に参加するなど、精力的に活動した。1940年代後半から50年代にかけて、児童書の装丁や挿画を数多く手掛け、物語の世界へと接近し、桂は作品を通して寓意性を含んだ新たな社会風刺的表現を展開した。1956年からはパリを拠点にヨーロッパ各地へ周遊、現地の様々な作家と交流し、中央アフリカでの滞在を経て1958年より渡米。1961年の帰国後も海外旅行記を綴った著書が毎日出版文化賞を受賞するなど、桂の活躍は多岐にわたり、紅絹を用いた創作を発表する晩年まで、常に既成概念を踏み破る作品を制作し続けた。

《Diary》は一見、コラージュ作品にみえるが、コラージュを油彩で緻密に表現した作品である。このように、コラージュと油彩の境界が曖昧になっているこの作品からは、視覚と触覚を往復することによって対象をより根源的に理解しようとする、桂の探究を見ることができる。