僕は北海道が好きだ、などというよりも、僕にとって北海道はおそらく終生変わることのない〈我が愛〉なのである。
「犬の記憶」より

商業デザイナーを経て、写真家・岩宮武二や細江英公のアシスタントを務めていた森山大道が、フリーの写真家としてデビューしたのは1963年のことでした。カメラ雑誌などを中心に発表された粒子の粗いハイコントラストの表現は”アレ、ブレ、ボケ”と形容され、当時の日本の写真界に大きな衝撃をもたらします。最初期の代表作「にっぽん劇場写真帖」(68年)や、写真とは何かをラディカルなまでに追求した問題作「写真よさようなら」(72年)は、今も日本写真史に残る傑作写真集のひとつに数えられています。その森山が「写真よ…」以降に味わった「写真との肉離れ」状態から、なんとか脱け出したいと自ら計画した78年初夏の札幌滞在。そこには田本研造ら北方写真師たちによって残された道内開拓初期の膨大な記録、写真群への思いがありました。

あたかも鋭いカミソリの刃でていねいに切り剥がしてきたかのような一枚一枚の写真は、事物が出来事が風景が、むろん人間も、その時その場所に確かにあった時間と光の一瞬を止めて、その一切が白と黒とのグラデーションに石化されてしまったかのようだった。そしてそれらの写真は無名性(アノニマス)に根ざしているがゆえに、かえって対象を見据える撮影者の個の視線がストレートに直感されてくるところがあった。旧い一連のその写真群は、写真集などを通して見たぼくに、懐かしいというよりも、むしろ新しいイメージとなって語りかけてくるものがあり、以来ぼくの内部(なか)に長く住みつくようになってしまった。
「犬の記憶 終章」より

30年以上の時を経てついに公開された森山大道の北海道。大部の写真集に加え、道内各地を会場ごとに異なる構成で巡る本展は大きな反響を呼んでいます。序章に続き、札幌宮の森美術館で開催される第2章では、デジタル・カメラによる最新のカラー作品もまじえ、約220点を展示いたします。

2010年2月19日(金)- 2010年3月29日(月): 東川町文化ギャラリー
2010年6月11日(金)- 2010年9月20日(月): 札幌宮の森美術館
2010年7月31日(土)- 2010年8月22日(日): 小樽運河プラザ
2010年8月3日(火)- 2010年8月29日(日): 市立小樽文学館
2010年9月3日(金)- 2010年9月27日(月): 札幌パルコ 本館