
松井紫朗
ココトソコノアイダ
1960年生まれの松井紫朗は、京都市立芸術大学彫刻科に在学中の83年より作品発表をスタート、早くから「関西ニューウェイヴ」の担い手のひとりとして注目されました。ミニマリズム、コンセプチュアリズム、日本では《もの派》など、60-70年代を通じて大きな影響力をもった一連の動向が終息に向かう中、彼らはイズムや流行におもねること無く、「描くこと」「つくること」への強いこだわりを持って、自由かつ独自の表現を求めていきました。
90年代初頭から、シリコンラバーによる艶やかで独特の重力感をもつ作品を手掛けるようになった松井は、それまでにも抱えていた人間の知覚、空間認識への関心をより鮮明にしていきます。ホースのように延びた管状の空洞は、作品の内に外部の空間を取り込むと同時に、そこを見る者の意識と想像力が出入りする奇妙な知覚体験をもたらします。
さらに90年代後半からは、膜構造体やチューブ状の巨大なバルーンを使ったサイトスペシフィックな作品を展開。展示空間に挿入されたもうひとつの世界という仕掛けによって、薄膜を隔てて双方を行き交う鑑賞者たちは、自らの想像力によって作品の全体像を把握しながら、色鮮やかな光の中で軽い目眩のような感覚に襲われていきます。こうした自らの作品を媒介としてひとつの空間の中に異空間を出現させるというアイデアは、ガラス容器に詰めた宇宙空間という途方も無い計画にまで発展しています。
本展「松井紫朗 ココトソコノアイダ」では、90年代に制作されたシリコンラバーの作品やユニークな形状を持つ容器や水槽を使った作品に加え、《Garden Picture》と題された近作絵画、国内外で実現したインスタレーションの画像や資料等によって、アーティストの今日までの創作と思考の歩みをたどります。