
阿部典英/柿﨑煕/伊藤隆介
スキャン・ドゥ・スキャン 2007
「SCAN DO SCAN」展は阿部典英、柿崎煕、伊藤隆介による三人展である。いずれのアーティストも北海道在住であり、本展を第一回として以後企画を継続し、北海道における現代美術の振興を目指すことが本展の企画意図である。
阿部典英は1939年生まれ。60年代後半からゴム、アルミニウム、半硬質ウレタンなどの新素材で破格の造形を発表し、80年代からは木彫に転じ人体像やハート型といった作品から土着的な抽象的構造まで、一つの枠組みに捉われることのない作品を発表し続けてきた。本展では「船出」と名付けられた、阿部にとって単体の作品としてはこれまでで最大のものを展示する。阿部は、これまでさまざまな素材を自在に扱ってきたが、今回の作品で初めて紙の原料となるパルプを素材に用いている。作品表面の独特のマチエールを生んでいるこの素材との出会いも含め、新たな展開を見せ始めた阿部の「船出」を示している。
柿崎煕は1946年生まれ。60年代は油彩で、時代の閉塞感に抵抗する個の生き様をシュールに描いていた。70年代に入り、立体造形に移行する頃から自然への関心を強め、その森羅万象の還元化に向かった。本展で展示される「林縁から」のシリーズの制作は90年代から開始され、重層のパネル状の作品から始まり、床置きの立体作品を経て、1997年以降は壁面への設置に移行し、色彩と形体を変化させながらさまざまな展開を見せてきた。そこに一貫しているのは自然に向けられた柿崎独自の眼差しであり、生命の息吹、生命の連鎖の荘厳さへの柿崎の思いが凝縮されている。
伊藤隆介は1963年生まれ。89年からシカゴに住み、アメリカで劇映画のアヴァンギャルドに挑戦していた。国内で作品を発表し始めたのは96年ごろからで、映像作家としてフィルムの物質性に着目した実験的作品などを発表すると共に、機械仕掛けでぎこちなく動くミニチュア模型とそれを撮影したリアリティーのある映像を対比させるインスタレーションを主に行ってきた。本展では《映画の発見》、《2046年頃》、《列車の到着》の映画の原理や発明にまつわる3点の作品を展示している。伊藤は、この3通りのシチュエーション設定の中で映写機作りを試み、映画草創期の技術者の思いを追体験しようとしている。
「SCAN DO SCAN」展では、独自の表現で国内だけでなく海外でも活躍中のアーティスト三人の、札幌宮の森美術館で「スキャニング」された彼等のイマにご注目いただきたい。